南を離りて

同じように、重傷者から順に治療を施していく。

オズランデ兵の刀傷の者、矢で射られた者、火傷を負った者。

数人を治療した所で、レヴィに疲れが見え始めた。
昨夜と同じように、指先からの光が頼りないものになる。

それを見て、灰色の目の男は昼餉を促した。


レヴィに魔力を封印する呪を施し、天幕へと連れていく。

質素な天幕は『牢』を呈しているのだろう。

道中で、疲労からレヴィがふらつくと、腰を支えてくれるのは力強い腕。

ほとんど抱えられるようにして天幕に着くと、そっと降ろされた。

固い地面が、疲労のたまった体に辛かった。


レヴィの額に浮かんだ玉の汗を見つめて、低い声が問う。

「暑いのか」

「…どちらかといえば、寒いですね」

唇をあまり動かさないようにして、レヴィは目を伏せる。

男が何か言ったような気がしたが、もう耳には届かない。

そのまま、意識は混濁した。





聞き覚えのある炎の爆ぜる音に飛び起きたが、それは戦場の火とは違う、暖かい温もりだった。

「気が付きましたか?」

口の端に笑みをたたえてレヴィの顔を覗き込んだのは、明るい茶色の瞳。

小さく焚かれた火のあと、その姿を見、体の上にかけられた布を見て、レヴィは首を傾げた。

「ジェイル様の言いつけで、僕が準備しました」

そう言った男はロポロスの兵らしからぬ細面で、どことなく灰色の目をした彼に似た雰囲気だ。

――あの人は、そういう名前なのか。

灰色の目をした彼の、名前を訊いていなかったと思い至る。
同時に自分の名前も訊かれていないことも。

「僕はシュマルと言います。何か食べられますか?」

レヴィの心を読んだかのように名乗って、明るい茶色の目をしたシュマルは、体を起こすのを手伝ってくれた。



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