南を離りて

「…レヴィさま?」

「ロポロスの兵が、迫っています」

「そんな!では――」

自分達はどうなるのだろう、と恐怖を覗かせた少女にたたみかけるレヴィ。

「行って、皆に伝えなさい」

「でも、」

「早く!ここは、わたしが」

逡巡する隙を与えないよう、レヴィは自らの周囲守っていた水の渦を、背後へ流す。

持てる限りの魔力を注いで、背後に水の壁を作り上げた。

突如として森の中に現れた、空から落ちる大瀑布。

少女は水の流れに背を向けて、砦へと急いだ。





膨大な量の水の滝は、オズランデ陣営に迫っていたロポロス兵も驚嘆する程のものだった。

それと同時に兵を引きつける。

騎馬は迷いなく森の中を走って、滝の元へとたどり着いた。

白煙の中、馬の嘶きが聞こえたかと思うと、眼前に踊り出る光る甲冑の影。

その形を認めて、レヴィは覚悟を決めた。

数は多くはないが、騎乗した彼らの体躯の逞しさはどうだろう。

洗練された一分の隙もない、士[もののふ]の姿。


背中に滲んだ恐怖の汗に気づかないふりをして、掌で背後の滝を撫でる。

レヴィの掌に応え流れを変えた水は、槍のような形をして、じりじりと迫る馬影を勢い良く突いた。

敵を仕留められたか、確かめる間もないまま、魔力を使い果たした魔導士は、意識を手放し地に臥した。





微かな水の匂いと、食べ物の匂いにレヴィは目を開けた。

――生きて、いる?

暗がりの中、身を起こそうとして、体の自由がきかないことを知る。

両腕が後ろに回され、手首には固い縄の感触。
どうやら、足も縛られているらしい。

身を捩って、何とか体を起こした頃には目も暗闇に慣れ、質素な天幕の中にいるのだと理解した。

きつく縛られているせいで、両肩がひきつって痛い上に、縄を解こうと呪文を唱えても何の反応もなかった。



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