雷鳴
そんなヴィルに対してどんな言葉をかければいいか、ディノは分かっている。
「申し訳ありません。…ですが、もう手遅れでしょう。その少年はすでに陛下への献上品として王宮に入っているはずです」
あらかじめ薬や籠まで準備されていたのだから、国王陛下への謁見の申請も手配済みに違いない。
――あの男は、きっとそこまでやってのける。
雷の特級魔導士に相応しい、鋭利で貪欲な眼差しをした男。
オルヴァ・イースブルク。
彼の言動で、ヴィルがこうも取り乱している姿が、ディノにとっては不愉快極まりない。
「ですから、ヴィル様」
ディノは髪を握り締めるヴィルの手を優しく撫でながら、諭す。
「せめて、その少年が、これから、王宮で不自由することがないよう、見守ってあげましょう。そして、もし必要とあらば、」
ヴィルが顔を上げ、縋るような眼差しでディノを見つめる。
「力に、なってあげましょう」
こうして慰める一言で、その表情が和らぎ、心が軽くなるのだと、彼は知っている。
ヴィルを煩わすものは、全て排除するのが、ディノの役目だ。
――あなたを困らせるのは、どんな時でも。
唯、ディノ自身の欲望を満たす為に。
――僕だけでいい。
窓の向こうで暗い色の空に走る閃光が、ディノにとっては目障りで仕方なかった。
ヴィルに触れた手とは逆の指先を軽く上げ、窓の両端に撓むカーテンを、音を立てて引く。
「お茶をいれます。身体が温まれば、落ち着きますよ」
優しげな視線をヴィルに向け、その温度を惜しみながら手を離して、ディノは立ち上がった。
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