雷鳴

ヴィルが口を開く度、ディノの体の奥に彼の意志とは無関係に熱が灯る。

今、この状況にはあまりそぐわない類のその温度をディノは必死でこらえた。

「わたしを…蔑んで、罵ってくれ…っ…。こんな風に…ディノに、労られる資格は、…っ…わたしには、ない…っ!」

「ヴィル様、落ち着いて下さい。一体、何があったのですか?」

両手で蒼白な顔を覆い目の前で嘆くヴィルに、体の奥の熱を隠しながら、ゆっくりと事情を尋ねる。

ぽつりぽつりと、ヴィルは言葉を零しはじめた。



「わたしは…一人の、少年の、人生を奪ったんだ…」



そんな嘆きの一言から始まったヴィルの話に、ディノはその内容を頭の中で整理しながら黙って耳を傾ける。




事の発端は、ヴィルと同じ特級魔導士の位を持つ、オルヴァ・イースブルクの一言だった。

『エルティシアンの少年を一人、救ってやりたいのだ』


エルティシアン。

ダナン大陸に生活するいくつかの種族の中で最もか弱い種族。

そして、最も美しい種族でもある。

彼らの髪は総じて白金。
瞳は青を湛える。

その肌は極上の絹より滑らかに指先に溶けて馴染むと云われている。



オルヴァは花街で見つけたエルティシアンの少年を憐れんで、彼を救いたいと考えた。

しかし、エルティシアンの売買には様々な制限がある。

例え国の特級魔導士と言えど、軽々しく手を出せるものではないのだ。

そこで、オルヴァはヴィルに相談をもちかけてきた。

『上級貴族グライス家の特権があれば、容易くエルティシアンの売買が行える。まだ成人前の幼い少年が、幾人もの大人相手に身体を売らなければならないなど、可哀想だとは思わないか?』

ヴィルはオルヴァの言葉に共感し、エルティシアンの少年を贖う手続きを行った。

代金はあらかじめオルヴァから渡されたという。

そうしてヴィルは、家の者に花街まで少年を迎えに行かせ、オルヴァと共にそのエルティシアンの少年が連れられてくるのを待っていた。


――「てっきり自由にしてやるものだとばかり…っ、…」


しかしオルヴァはその少年が来るなり、無理やり薬を飲ませ籠に押し込めて、そのまま王宮へ向かったのだ。



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