雷鳴

ディノの姿を認めてか、驚くように硬直したヴィルシュアを見て、彼の嗜虐的な部分が覗く。

窓の外も、ディノの心を読み取ったかのように暗い色をして、雨粒を落としている。

「ヴィル様、こんなに仕事を残して、一体どちらへ――」

行かれていたのですか、と問おうとしてディノはヴィルの異変に気付いた。


彼の羽織っている白いマントの肩が濡れている。

深く被られたフードからもぽたぽたと雫が落ちていた。

そもそもフードを被っている所からしておかしい。

水の特級魔導士ともなれば、フードなどなくとも雨粒を遮る事など容易いのだから。

「ヴィル様、ちょっと」

失礼します、とディノは水の滴るフードに手をかける。

雨の雫をたっぷりと吸ったローブの生地は指先に重い。

「…っ!ヴィル様、一体どうされたのですか…?」

フードから現れたヴィルの顔は蒼白で、今にも失神してしまいそうだった。


朝の光を受けて煌めく湖面のように明るい水の色を湛えた瞳も、まるで生気がない。


マントでは遮れきれなかった雨が、ヴィルの銀の髪を濡らして鈍く光る。

「ディノ…、わたしは…」

ヴィルが小さく呟くと、銀髪の毛先から小さな雫が揺れて、落ちた。

「わたしは…っ…とんでもない、事を…っ…!!」

絞り出すように言って、ふらりと倒れ込みそうになる身体をディノは咄嗟に抱き留めて支える。

「ヴィル様…落ち着いて下さい。とにかく、こちらへ」

身体を預けてくるヴィルをビロードの長椅子へ運び、腰掛けさせた。

「お茶をいれます」

短く言って、椅子から離れようとするその袖をヴィルの白い手が強く握る。

「ディノ…、わたしを……」

辛そうに顔を歪めて、今にも溢れてしまいそうな涙の粒。

喉の奥から苦しそうに絞り出された次の言葉に、ディノは目眩を覚えた。



「…わたしを、罵ってくれ」



耳を疑い、言葉の出てこないディノの返事を待たずにヴィルは続ける。

「わたしは最低な事をしてしまった…。っ…軽蔑してくれ、ディノ」



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