左手の薬指

「一緒に暮らさないか」

と、唐突に彼は言った。

一瞬、言葉の意味を理解できずに目をぱちぱちとさせる。
感情が高ぶった時、俺のまぶたはこういう動きをするのだ。

彼もそれを知っていたので、俺の心境を察したのだろう。
少し、微笑む。


付き合いはじめて二年。
今までで一番長く付き合った恋人ではあるが、何となくいつかは別れるものなのだろうな、と思っていた。


これまでと同じように。


だから、思ってもみなかった。
これまで言われたこともないような言葉を聞くことになるとは。

いつも通りに少し遅めの夕食を食べて、片付けて、まどろんで。
そろそろ帰ろうかと思っていた所だった。


俺はあまりこの部屋に泊まらない。
そもそも、

「自分の部屋に他人を泊まらせるの、キライなんじゃなかったのか」

付き合う前、一方的に想いを寄せていた頃、そう言われたのだ。

「あの頃と今とじゃ、違うだろう」

また、まぶたがぱちぱちと動いた。
そして、熱い雫が頬を伝う。

「…っ!!」

思いもよらない言葉に、涙が零れる。
それを隠そうと顔を背けたが、遅かった。

涙の流れた左の頬に、彼の長い指が這う。
指輪を、という呟きに、目線だけを向けた。

「指輪を買おうと思ったんだけど…」

言いながら困ったように眉を下げる。

「サイズが、分からなくて」

そんな、ちょっと情けない言葉に、ふっと体の力が抜けた。

「かっこ悪…」

「ホントに。明日、一緒に買いに行こう」

くすくすと笑いながら頬から指を離して、俺の手を取った。



柔らかな唇が、指に触れる。



明日には、きっと。
その指に、銀の指輪が光っていることだろう。



    1/1    
目次へ

MAIN
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -