JUNE BRIDE

雨の季節はキライだった。
あの人に、出逢うまでは。



バス停で、バスを待つ。

そんな日常的な行為さえも、雨のおかげで普通にできない。

簡易ベンチが置かれただけの、いかにも田舎のバス停には、雨を遮るものはない。

晴れた日なら、右手に携帯、左手にマンガ雑誌が俺の必需品だけれど。

今日は朝から続く雨のせいで右手に携帯、左手にビニール傘。

まったく、不自由極まりない。

いつもはバスが遅れようと寛大な心で許せる。

雨が降っているとそうはいかないんだ。

意味もなく、イライラする。

片手は使えなくて不自由だし。

制服のズボンは濡れるし。

靴下までびちょびちょになるし。

髪はうまく立たないし。

あげていけばキリがない。

とにかく、俺は雨が嫌いだ。

携帯の画面を見ながら時間をチェックすると、五時四十五分に変わる瞬間だった。

バスは五時四十分に来る予定なのに。遅れてんじゃねぇよ、コノヤロー。

心の中で悪態をつき、ふと左側を見ると、いつの間にか一人の男が立っていた。

おれのナナメ後ろに、静かに。

立ち姿は精悍で、雨によく映える。

グレーのスーツと左手に提げているビジネスバッグが、できる男を演出している。

なのに、右手には
淡いピンク色の、傘。

それが男に不釣り合いすぎて、思わず見つめてしまう。

俺の傘はビニ傘で、見ていることに向こうが気付く可能性は高い。



前を、向かないと。

冷や汗が背中をつたう。

前を…

向け、ない。



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