Smoke Gets In Your Eyes

僕の恋人は、僕と喧嘩をすると必ずベランダに出て煙草を吸う。

数は決まって二本。

理由は、簡単。

煙草を二本吸う間に僕が冷静な心を取り戻すから。


今も些細な事で喧嘩をしたから、ベランダに行きそうな気配。
何の銘柄かは知らないけど、黒い煙草の箱とライターを持って壁に寄りかかってる。

彼の目線は手元のライター。
火をつけたり、消したりしてる。

何度かそれを繰り返してベランダのガラス戸を開け、そのまま部屋から出ていった。

リビングにいる僕に背を向けて、ベランダの手すりに頬杖をつく彼。

暫くして煙草に火をつけ、口に含むとゆっくりと紫煙をくゆらせ始めた。



きっと、彼は勘違いしているんだろう。



喧嘩をしたあと、自分が煙草を二本吸う『時間』が重要なのだと。

でも、ホントはそうじゃない。

僕にとっては彼が煙草を吸うというその『行為』こそが大切なんだ。

普段、謝罪の言葉など決して口にしない彼が煙と一緒にその言葉を吐き出しているようで。

空気に触れた煙草の煙は僕の目に見えるか見えないかの早さで一瞬のうちに散って、消えてしまう。



その、一瞬の謝罪に目を凝らして。
僕は冷静な心を取り戻す。




彼がゆっくりと時間をかけて二本吸い終えるのを待って、僕がガラスを叩けば仲直りの合図。

ガラスの向こうで微笑む彼。

僕は早く彼に触れたくて、急いで戸を開ける。

室内に彼を招き入れ、その腰に腕をまわす。

彼は後ろ手にガラス戸を閉めたあと、僕の背中や頭を撫でてくれる。

手が動く度に煙草の香りが鼻をくすぐって、少し口元が緩んでしまう僕。



そして、そっと唇を重ね合わせる。



仲直りのキスはいつも、煙草の香り。



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