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ふとした時に、過去を振り返ることがある。

そんな時、いつも思い出すのは。

あの、春の日のこと。





きらびやかに飾り付けられた結婚式場に訪れた俺を出迎えてくれたのは、ロビーで談笑していた高校時代の友人達だった。

「久しぶり!」
「お前、変わらないな」

高校を卒業して十年。

ほとんど帰省しなかった俺を、あの頃と変わらぬ笑顔で迎えてくれる悪友達。
口々に言って、集まってくるメンバーの中に今日の主役はいない。

「樫井は?」

「控え室じゃね?」

「受付やらなくて良かったのかよ。一番仲良かったのお前だろ」

男子数人が集まると、収拾がつかなくなるのもいつものこと。
こんな時、樫井は俺の隣で何も言わずに笑っていることが多かった。

「主役に挨拶してくるわ」

控え室の場所を聞いて、上階へ上がろうと移動する。
エレベーターの前まで来たが、華やかに着飾った女子集団と鉢合わせしてしまったので、仕方なく階段を使うことにした。

少し離れた喧騒と、日当たりの良い階段がふと過去の時間に引き戻してくれる。

色あせた灰色の床を靴を鳴らして走った卒業式の日。

忘れ物をしたという樫井に付き合って、一度旅立った教室へ引き返そうとしていた。
名残惜しいと思っていた校舎が、二人ををすんなりと受け入れてくれたから、樫井は言ったのかもしれない。


階段の踊り場でくるりとこちらを振り向いた樫井が、耳まで真っ赤にして振り絞った言葉。

「好きなんだ」

小さく言って、俯いてしまった樫井の黒髪がさらと揺れるのを見つめていた。



十八歳だった。
人を好きになったこともあった。
けれど、まだ子どもだった。

昨日までの友人を好きになる勇気はなかった。

だから。

「俺も樫井のこと、一番のダチだと思ってるよ」

俺は逃げた。




樫井の気持ちと向き合うことから。
新しい世界に足を踏み入れることから。
友を失い、恋人を手に入れることから。




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