It's a small world

あの頃。
世界は、僕と君。
二人だけのものだった。





「好きな人ができたんだ」

クッションを一つ、大事なもののように胸の中に抱えて、恥ずかしそうに言う兄に、僕はショックを受けた。

同じ日に産まれて、十四年。

親が間違える程瓜二つで、好きなものも、嫌いなものも同じ。

そうやって、何もかもがずっと一緒だったはずなのに、兄は僕とは全く違うヒトになってしまった。

課題のプリントをしていた僕の、ペンを持つ手が震えて。

ぽきり、と小さな音を立ててか細い芯が折れた。

「…びっくり、した。いつの間に?」

辛うじて絞り出した返答に、兄は戸惑いながら口を開く。



先週の日曜日の事。

所属する弓道部の試合で、馨[かおる]は体調不良と緊張から、袴を着たまま他校の弓道場で倒れた。

嫌な予感がして、僕はふらりと倒れた兄を間一髪で受け止める事ができた。

双子の妙とでも言うのか、互いの考えていることや、体調は何となく分かる。

真っ青になって震える馨に付き添ってやりたかったが、補欠の選手になっていた僕は倒れた彼の代わりに試合に出なくてはならなかった。

他校のコーチと部員に支えられて救護室へと向かう背中を、とても悲しい気持ちで見つめたのを覚えている。


自分の中の大事なものを、無理やり引き剥がされてしまったような。


緊張のせいでそうなっていたのだと思ったが、そうではなかった。

兄が恋したのは、その時に付き添ってくれた他校の弓道部員なのだそうだ。



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