やじるし
矢を放て。
想いの速さで飛んでいく。
教室の窓に、眼鏡をかけた自分の姿が映った。
浮かない顔をしているのが自分でも分かる。
理由も分かってはいるけれど、思春期の高校生の頭の中なんて、恋でいっぱいだからしょうがない。
その恋が片想いだから尚更、地味な顔が益々に地味になろうというものだ。
頬をつねって自分の顔を見つめていると、教室の後ろのドアが開いた。
「お待たせ〜」
幸せそうに頬を緩めて、ふにゃふにゃと僕の前の席に座り込む同級生。
「おかえり」
彼が椅子の背を抱え込むようにして机に頭を預けると、色の抜けたふわふわの髪が目の前で揺れる。
「差し入れ、渡せた?」
「うん。先輩は今日も超絶カッコ良かった〜…」
しみじみと言う彼の後頭部を撫でる。
こんな風に触れられるだけで、今の僕は幸せ。
たとえ君の心が僕とは全く正反対の人に向いていようとも。
「あのさ」
「うん?」
「今度、練習試合があるんだって」
彼の想い人はバスケ部のエースで男女共に人気がある。
ちなみに性別は僕らと同じ男。
「そうなんだ。どこで?」
「それが、少し離れたガッコでなんだよね…」
「そう」
「で、さあ」
もじもじと体を揺らしてこちらを見上げてくる顔が可愛いらしくて、その先の言葉は予想がついたけど助け舟は出さないでおいた。
「一緒に、行ってくんない?一人じゃ、恥ずかしくて」
いひ、と頬をりんごのように赤く染めて照れ笑う君のことを好きだなんてどうして言えるだろう。
先輩のことを好きで、健気に想う君を見守るのが僕の役目だと、何となく思っている。
「いいよ。何かおごってね」
「ん!肉まんかピザまんな」
僕の了承ににっこりとして、鞄を取った。
立ち上がる彼に倣って僕も椅子を引く。
「あのさ」
机に手を着ながら僕を待って、
「ありがとね」
そう微笑まれれば、それだけで幸せ。
君と僕とをつなぐやじるしがいつか、友人から恋人に変わるまで。
ここにいるよ。
君を好きな僕は、ずっと。
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