プラネタリウム・シンドローム
昨日、恋人とケンカした。
電話の途中で受話器の向こうから女の人の声がしたのがきっかけだったと思う。
オレの恋人は男だから、結局女がいいのか、と。
他にも、後ろ向きな愚痴をかなりの勢いでまくし立ててしまった。
呆れてため息をつく年上の恋人が嫌で。
声しか聞こえない、顔が見えないのが嫌で。
八つの年の差が嫌で。
最後にはパニック気味になり、泣いてしまった。
「落ち着いたら、連絡しておいで」
と、宥めるように言われれば、それすらも嫌で。
意地になって、丸一日連絡をしていない。
学校を終えて、恋人の働く職場へ直接を足を運んだ。
ドーム型のスクリーンが、オレを出迎えてくれるが、恋人のシフトが今日は休みだったと知る。
自分の詰めの甘さに心底嫌気がさし、半分ヤケでチケットを一枚購入した。
上映時間はラスト。
制服で、しかも男ひとりでプラネタリウムのチケットを買う高校生は、おおいに目立ったことだろう。
入り口から一番遠い席を選んで、まだ白いままのスクリーンを見つめた。
丸みのあるフォルムに、心が癒される。
意地を張ってないで、この上映が終わったら、電話をしようと決意して、携帯の電源を落とした。
上映開始のアナウンスが流れ、照明が落ちる。
そのあとすぐに、バタバタとドーム内に駆け込んでくる客の足音が聞こえた。
――迷惑なやつ。
ちっ、と小さな舌打ちをして、レプリカの空に全神経を傾ける。
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