みつばちとキス

塾から帰り、玄関に揃えられた靴を見るなり、昌也[マサヤ]は階段を駆け上がった。

「兄ちゃん!爽真さん来てる?」

嬉々として叫びながら兄、朋己[トモキ]の部屋をノックと同時に開ける。

「お前、ノックする意味分かってるか?」

「おかえり、昌也くん」

朋己はため息をつきながら、もう一人、兄の友人爽真[ソウマ]は柔和な笑顔でドアの方を見た。

「いらっしゃい、爽真さん」

兄を無視して、爽真の横に座る昌也。

「勉強してたの?」

低いテーブルに広げられた二人分の勉強道具を見ると、昌也にはさっぱり分からないような記号が並んでいた。

「そ。もうすぐ試験だからお前と遊んでるヒマはないの」

「おれだって、もうすぐテストだもん。おれも一緒に勉強する!」

すでに一杯になっているテーブルの上に、無理やり自分の課題を出す昌也に朋己は怒鳴る。

「邪魔だって!自分の部屋でやれよ」

「やだ!ここでやるの!」

見かねて爽真がまあまあ、と仲裁に入った。

「昌也くん、一緒にするなら部屋からテーブルもっておいで」

「うん!」

爽真の言葉にぱあっと顔を輝かせて、一旦部屋へテーブルを取りに走る。
次いで爽真が立ち上がったのを見て、朋己は言う。

「お前は昌也に甘い」

「だって、可愛いじゃないか昌也くん」

「ただのクソガキだろ」

「いつも一緒にいるから、分からないだけだよ」

意味深な言葉を残して、爽真は昌也のあとを追って行った。


開け放されたままのドアから、テーブルの上に乗ったものを慌てて片づけている昌也が見える。

そんな姿に微笑みながら、爽真は声をかけた。

「昌也くん、手伝うよ」

「わあ!だ、大丈夫これくらい。爽真さんっ、散らかってるから入っちゃダメー!!」

あわあわとドアを閉めようとする昌也が可愛いらしくて、笑いの止まらない爽真。

「僕の部屋よりキレイだよ」



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