ソライロ
校内の木という木から、命を燃やす、蝉の鳴き声が聞こえてくる。
夏休みの最中だというのに、体育委員の仕事で学校に来た俺は、うだるような暑さに、今にも倒れてしまいそうだった。
グラウンドから校舎への僅かな距離すら、まるで、何かの拷問のよう。
昏倒寸前な頭でも、来たからにはきちんと仕事をして帰ろうと考えてしまう、真面目すぎる自分の性格を少しだけ恨む。
制服のシャツに汗がしみて、肌に纏わりつくのが不愉快で、歩きながら、背中の布をつまんでハタハタと風を通した。
シャツと肌の間を抜けていく、生ぬるい風。
それでもいくらかマシだと、大きく息を吐いた瞬間、
「何か、夏の校庭に似合わない人がいる」
校舎近くの水道から、聞いたことのある声が聞こえた。
驚いて目を向けると、水道脇の木陰にいたのは、同じクラスの男子生徒。
彼がサッカー部なのは、あまり喋ったことのない俺でも知っている。
きっと、練習に来ているのだろう。
教室内での彼は、どこか浮き足立って、子供っぽく見えていたが、今は違う。
青葉の隙間から差す太陽の光と、蝉の鳴き声のBGMが、とてもよく似合っていた。
「不似合いなのは自分でも分かってる」
夏そのものといった雰囲気の彼が何だかうらやましくなって、少し不機嫌な声で答えた。
俺の言葉に、木陰の下から笑ったような気配がして、一瞬あとにこちらへ歩いてくる彼。
「コレ、やるよ」
小さな塊が放られ、反射的に手を伸ばした。
受け取るのに必死な俺の横をかすめていった、夏と汗の匂い。
お礼を言おうとして、背中を追ったけれど、彼はすでに、グラウンドの光の中へ消えていた。
受け取った保冷剤のようなものを握りしめると、冷たい氷の塊が、手のひらの中でじわりと溶ける。
真夏の空と同じ色をした彼のシャツが、いつまでも目に焼き付いていた。
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