たいせつなもの
昨日も、今日も。
明日も、明後日も。
ずっと。
ずっと、ずっと。
君と。
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「アキホ…っ、アサヒちゃん!オメデトウっ!!」
自転車置き場で自転車に鍵をかける晃歩を待っていると、背後から涙ぐんだ声が響いた。
振り向くと、そこにいたのは晃歩のクラスメートの一人、自転車を押す、奏太[カナタ]くん。
朝の第一声がオハヨウ、ではなくオメデトウだったことに少し疑問を感じながらも、挨拶を返そうとする。
「あ、おは…」
「行くぞ、旭」
ところがそれを遮って、晃歩が僕の肩をつかむ。
「ちょっ…晃歩、いいの?」
「いいんだ。行こう」
いつもなら自転車置き場で会えばそのまま一緒に教室に行く。
不自然な行動をとる晃歩を見上げると、校舎へぐんぐん歩いていく横顔は、心なしか赤い。
「…?」
首を傾げながら少し遠くなった自転車置き場を振り向くと、奏太くんはなぜか笑顔でうんうん、と頷いていた。
靴箱へ行き自分のクラスの方へ向かおうとすると、またしても晃歩に肩をつかまれた。
「旭、俺が靴履き替えるまで、ちょっと待ってて」
「え?あ、うん。いいけど…」
晃歩はよし、と小さく漏らすとさっさと自分の靴箱へ行く。
靴を履き替えて僕のクラスの靴箱に周り込み、キョロキョロと辺りを見渡した。
何かを警戒しているような晃歩の行動に、頭にクエスチョンマークを浮かべて、手招きされるまま靴箱に向かう。
靴を履き替えながら晃歩に疑問をぶつけた。
「晃歩、どうかしたの?さっきから何か、ヘン」
「いや、別に」
特に焦る風でもなく平然と言ってのける晃歩。
でも、僕と晃歩は長い付き合いなんだ。
それに、昨日から恋人同士になったんだから。
「嘘。僕に何か隠してるでしょ?」
晃歩の様子が、やっぱりどこかいつもと違うことくらいお見通しだよ?
「俺らを避けてるんだよねぇ?晃歩」
「そ〜そ〜。でも、逃げようたってムダだし〜」
不穏なセリフとともに晃歩の後ろから手が伸びる。
ガシッと晃歩の肩を捕まえながら、柔和な笑みを浮かべるは、晃歩のクラスメートの椎[シイ]くん。
晃歩の腰に手を回しながら、ニヤリと元気な笑顔なのは、同じく響[ヒビキ]くんだった。
「旭ちゃん、おはよう」
硬直する晃歩をよそに、椎くんは僕に笑顔を向ける。
「お、おはよう」
なぜか迫力たっぷりの椎くんの笑顔に、後ずさりしてしまう僕。
「旭ちゃん、一限の授業なに〜?」
響くんは屈託のない笑顔できいてくる。
「一限?世界史かな」
「出席だいじょ〜ぶ?」
「大丈夫だよ。でも、どうして?」
「一限、みんなでサボろ〜!!」
「うん」
響くんがあまりに悪びれなく言うものだから、僕は思わずこくりと頷いてしまう。
「ちょっと待て。俺は行かないからな」
晃歩はかなり動揺した様子で椎くんの腕を振りほどこうとする。
「いいよぉ?でも、旭ちゃんは連れて行くからね?」
椎くんにそう言われて、晃歩もサボリが決定した。
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