たいせつなもの

昨日も、今日も。
明日も、明後日も。

ずっと。
ずっと、ずっと。
君と。



****



「アキホ…っ、アサヒちゃん!オメデトウっ!!」

自転車置き場で自転車に鍵をかける晃歩を待っていると、背後から涙ぐんだ声が響いた。

振り向くと、そこにいたのは晃歩のクラスメートの一人、自転車を押す、奏太[カナタ]くん。

朝の第一声がオハヨウ、ではなくオメデトウだったことに少し疑問を感じながらも、挨拶を返そうとする。

「あ、おは…」
「行くぞ、旭」

ところがそれを遮って、晃歩が僕の肩をつかむ。

「ちょっ…晃歩、いいの?」

「いいんだ。行こう」

いつもなら自転車置き場で会えばそのまま一緒に教室に行く。
不自然な行動をとる晃歩を見上げると、校舎へぐんぐん歩いていく横顔は、心なしか赤い。

「…?」

首を傾げながら少し遠くなった自転車置き場を振り向くと、奏太くんはなぜか笑顔でうんうん、と頷いていた。





靴箱へ行き自分のクラスの方へ向かおうとすると、またしても晃歩に肩をつかまれた。

「旭、俺が靴履き替えるまで、ちょっと待ってて」

「え?あ、うん。いいけど…」

晃歩はよし、と小さく漏らすとさっさと自分の靴箱へ行く。
靴を履き替えて僕のクラスの靴箱に周り込み、キョロキョロと辺りを見渡した。

何かを警戒しているような晃歩の行動に、頭にクエスチョンマークを浮かべて、手招きされるまま靴箱に向かう。

靴を履き替えながら晃歩に疑問をぶつけた。

「晃歩、どうかしたの?さっきから何か、ヘン」

「いや、別に」

特に焦る風でもなく平然と言ってのける晃歩。
でも、僕と晃歩は長い付き合いなんだ。

それに、昨日から恋人同士になったんだから。

「嘘。僕に何か隠してるでしょ?」

晃歩の様子が、やっぱりどこかいつもと違うことくらいお見通しだよ?



「俺らを避けてるんだよねぇ?晃歩」

「そ〜そ〜。でも、逃げようたってムダだし〜」

不穏なセリフとともに晃歩の後ろから手が伸びる。

ガシッと晃歩の肩を捕まえながら、柔和な笑みを浮かべるは、晃歩のクラスメートの椎[シイ]くん。

晃歩の腰に手を回しながら、ニヤリと元気な笑顔なのは、同じく響[ヒビキ]くんだった。

「旭ちゃん、おはよう」

硬直する晃歩をよそに、椎くんは僕に笑顔を向ける。

「お、おはよう」

なぜか迫力たっぷりの椎くんの笑顔に、後ずさりしてしまう僕。

「旭ちゃん、一限の授業なに〜?」

響くんは屈託のない笑顔できいてくる。

「一限?世界史かな」

「出席だいじょ〜ぶ?」

「大丈夫だよ。でも、どうして?」

「一限、みんなでサボろ〜!!」

「うん」

響くんがあまりに悪びれなく言うものだから、僕は思わずこくりと頷いてしまう。

「ちょっと待て。俺は行かないからな」

晃歩はかなり動揺した様子で椎くんの腕を振りほどこうとする。

「いいよぉ?でも、旭ちゃんは連れて行くからね?」

椎くんにそう言われて、晃歩もサボリが決定した。



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