グッナイ、ベイビー
汗ばむ体をシーツの上にあられもなく投げ出して、ゆるく波打つ胸元に、俺は愛しさを覚えた。
俺の恋人は、情事が終わると決まってすぐに寝てしまう。
体を拭うように言っても、服を着るように言っても、うーん、というこもった返事しか返ってきはしない。
仕方なく乾いたタオルで軽く体を拭いてやる。
俺より若く張りのある肌の上に、白くとろりとした欲望の塊が散っている様は、至極淫靡で卑猥だと思う。
余計な考えを振り払って、体をきれいにしてやり、服を着せる為に上半身を起こした。
「んっ…、やー…」
無意識にいやいやと首を振る姿はまるで、ぐずる子猫のよう。
「はいはい。すぐ、終わるから」
あやすように背中を軽く叩きながら素早くシャツを羽織らせて、再び横たわらせると、そのままその体を抱いて俺も横になった。
俺より小柄な細い体が、腕にすっぽりとくるまる。
いつものように少し背を丸めて、俺の胸元にすりすりと擦りつけられる鼻先。
「んー…ん、…」
すよすよと浅い寝息を繰り返す腕の中の子猫は、黙っていればとても品が良い。
「ほんと。寝顔は、可愛いよなあ…」
口を開けば凶悪乱暴。
けれど、こうしてまぶたを閉じて俺の腕の中で眠る姿はこの上なく愛らしい。
眠る子猫にイタズラするように、まだ赤みのさしている頬をちょいちょい、と軽く撫でた。
「ふ……、んー?」
まぶたが僅かに震えて、ごく浅く眉間に皺がよる。
ふっくらとした唇が尖るのを見て、本当に子猫みたいだな、と思った。
「…猫耳、似合うかもな」
ふわふわの薄茶の髪を梳くと、情事後特有の、ほのかな汗の薫り。
猫耳を差し出したら、どんな表情になるか、どんな言葉が飛び出すかを、しばし考えた。
やはり猫耳はやめておこうという結論に至って、猫耳をつける代わりに、薄茶の毛並みに隠れた額にキスを落とす。
「おやすみ」
丸まる背中にまわした腕に、軽く力を込めた。
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