Sugar boy

その夜、弘[ヒロム]は自室で本を読んでいた。

自室、といっても親戚の家に居候しているので、普段はそんなにのんびりできるものではない。

だが、今夜は別だった。
何故なら、居候している家の主である時田夫婦がいないから。
夫婦は二泊三日の温泉旅行に旅立ったのだ。

弘の間借りしている和室は基本的に飲食禁止なので、普段なら酒を飲めるのはリビングのみ。

しかも、居候させてもらっている手前、家の主である時田の夫に酌をしたりしなければならない。

時田夫妻は決して悪い人達ではなかったが、そうでないからこそ気を遣ってしまう。

そんな夫妻が今夜はいない。
なので、自室にビールを持ち込み、本(と言っても漫画だが)を片手に布団に寝そべっていた。


これぞ極楽、とばかりに些細な幸せを味わう。
鼻歌を歌いながらビールを飲み、本のページをめくる。
そんな弘の幸せな夜を、さらに幸せへと導く者が現れた。

「ひーくん…入っていい?」

障子の前に時田夫妻の息子、双葉[フタバ]がやって来たのだ。





「んー。いーよ」

障子の向こうから聞こえた双葉の幼い声に、俺は布団に寝そべったまま深く考えずに了承の返事をする。

スッと障子がひらいて、双葉が部屋へ入ってきた。
入って来るなり、

「あっ!!お酒飲んでる。いけないんだー」

冗談めかしてそう言いながら、横にころんと寝ころがった。

「おばさん達には、内緒な」

ちょっとだけ、ドキリとしながらも軽く返事を返す。
だって、双葉はそこらの女子より余程かわいいのだ。

そのかわいらしい顔が、うつ伏せになって両肘をたてている俺のすぐ横にある。

「……」

「?…なんだよ。どうかしたのか?」

「内緒にするから、ひとつ聞いてもいい?」

「俺に?なにを?」

考えるように、目を伏せる双葉。
口がとがってる、かわいいなぁ…

「双葉?」

促すように名前を呼ぶと、

「あのね、ひ、ひとりエッチってどうやってするの?」

早口で、驚くべき言葉が返ってきた。

もしビールを口に含んでいたら、漫画のように吹き出したところだ。



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