It's not so far
「もっしもーし!鳴[なり]ー!君の愛する鉄平[てっぺい]くんだよー!」
うるさい。
携帯の通話ボタンを押した途端、耳に響いたハイテンションな声に思わず受話器を耳から離す。
着信に気づいて、リビングを出、階段を上がる途中だったので、危うく踏み外しそうになった。
「叫ぶな、バカ」
「ばっ…!バカって鳴!それは俺にとってほめ言葉以外の何ものでもないよ?何せ俺は自他共に認める鳴バカだから!」
恋人からの熱烈なラブコールに笑いながら、自分の部屋のドアを閉める。
階下にいる親や兄弟に電話の声を聞こえないようにするためだ。
鉄平の声は大きい。
電話していると、その内容は近くにいる人達に筒抜けになってしまう。
「鳴、自分の部屋に入った?」
ドアを閉める音で気づいたのだろうか、鉄平が聞いてくる。
「うん。鉄平は今どこ?」
「俺はさっき家に帰ってきたとこ。ホントは駅からすぐ電話したかったんだけど、鳴に怒られるから家まで我慢した」
「えらい。えらい」
「でしょー?」
以前電話をした時、路上で鉄平が叫ぶものだから、聞いているこっちが恥ずかしくなって、電話を切った事がある。
「…ねー、鳴」
「うん?」
少しトーンの下がった鉄平の声を不思議に思いながら先を促す。
「会いたいよー」
「…無理言うな」
高校を卒業して俺は地元の大学へ。
鉄平は就職して地方勤務になって、そろそろ半年が経つ。
会いたい気持ちはもちろんあるが、会えないのが現状。
「俺、鳴欠乏症で死んじゃうかも」
「そんな病気はないから安心しろ」
「ある。あるよ!鳴の部屋からこっそり持ってきた、鳴の服をふんふんしても、全然足りないんだよー」
「服?」
最近見かけない服があると思ったら、鉄平のせいだったのか。
ふと、他にも見かけなくなったものがあることを思い出し、問うた。
「鉄平…持って行ったのは服だけか?」
「えっ?」
ぎくり、とした声の返答に、声を低くして電話に話す。
「ちゃんと白状しないと、明日から1ヶ月電話に出てやらない、の刑」
「わぁー!!それはダメダメ!言う!言うからっ!!」
「よし。服の他に、俺の部屋から何を盗って行った?」
「……鳴の下着と靴下を持って来ました」
「お前なぁ…そんなもの持って行って、どうするんだよ?」
呆れたように言うと、早口で鉄平の返答。
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