Black cat -雫-

運命的とも言えるルカくんとの出会いから一夜明けて、金曜日。
今朝も野良猫を見かけたので、会社への行き道でルカくんにメールを送っておいた。

返事が来たのは、昼。

『昨日はありがとうございました。
ノノの写真を送っておきます。
真一さんが朝見かけたという猫と同じですか?』

何の飾り気もない、若者らしからぬメールの文面に自分の名前を見つけて、自然と口元は綻ぶ。
返事を打ちながら、ルカくんの黒い毛並みの感触を想像した。

『期待させてごめん。
ちょっと違うかもしれない。
首輪の色がよく見えないんだけど、何色?』

朝見かけた、三毛の野良はもう少し細かったような気がした。
メールを続けるために、?をつけて返信を返す。

しばらくして、携帯が震える。
高校も今頃は昼食中なのだろうか。

『首輪は緑です。
銀の四つ葉のクローバーの飾りがついてます。』

クールビズの風潮に逆らって、ノータイを許されていない社内の食堂には、気怠い空気が漂っている。
昼食を口に運ぶ箸の動きも皆、どことなく遅い。

そんな中、早めに食事を終わらせて食器を脇に寄せ、携帯を手ににやにやしている俺が目立ったのだろう。
同期の社員が声をかけてきた。

「お疲れー。麻生、彼女か?」

「お疲れ。んー。彼女、ではないかな」

「彼氏か?」

同期の安田、彼は俺の性癖を知っている。
冗談めいた声で問いを続けてきた。

「まだ、違う」

「まだ、ねぇ。落とす気満々だな」

ふっ、と笑って定食の魚に箸を入れる安田。

「じゃなきゃ高校生相手に朝っぱらからメールしたりしないさ」

「…高校生?」

安田の箸を動かす手が止まる。



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