Milky Way

荷物の中身を滝本に手伝わせて組み立てながら、背の高い眼鏡の生徒は桐野[キリノ]と名乗った。

三年生で天文部の部長をしていること。
天文部は幽霊部員がほとんどで、実質一人で活動していること。
兄の影響で小さいころから天体観測が趣味だということ。

聞いてもいないことを勝手に話すので、そんな、かなりどうでもいい情報まで頭にインプットされてしまった。

「ほんと。滝本がいてくれて助かったよ。予定していたよりも遅くなってたから」

桐野に命令されるまま、組み立てを手伝い終える。

白い筒が、巨大な煙草の一本に見えなくもない。
間近で見るのは、ましてや組み立てる事など、滝本にとっては始めてだった。



祈るように、夜空へ。
その白い首を傾ける、堂々たる天体望遠鏡。



興味深そうに白い筒を眺める滝本の隣で、桐野はレコーダーを片手に呟いている。

『七月七日、木曜日。
時刻は午後八時七分。
現在の空模様はややくもり。
風は微風。南からー…』

夏の夜風に乗って耳に響くその穏やかな声に、空を仰いだ。
星は見えるが、そこまではっきりと見えている感じはしない。

「星見るんなら、もっといい場所があるんじゃねえの?」

レコーダーを止めたのを確認して、桐野に問う。

「一応、部活の一環だから。コレは学外持ち出し禁止だしね」

天体望遠鏡を覗き込んで、細々とした調節をしながら答える。


でも、と桐野が滝本を振り返った。

「校内で一番、空に近い場所を選んだんだ」

藍色を背に、誇らしげに笑う桐野。



そうして、天文オタクとヤンキーの天体観測が始まった。



天体観測とは言っても、桐野に言われるままメモをとったり、図鑑のページをめくったりしただけで、たいしてする事はなかった。

一通り観測が終わると、ご褒美だと言って白い筒を覗かせてくれる。

「これ、何の星?」

「君の星だよ。滝本」

「はぁ?意味分からん」

「下の名前、氷織[ヒオ]っていうんだろ。゙織゙姫だから、こと座のヴェガ」

「へー。そう」

「そんな、興味なさそうな返事をされると傷つくな」

「だって、星座の名前も、星の名前もさっぱり分からんし」

「夏の大三角形くらいは分かるよね?」

「え。ギリギリ?」

「興味がないと、そういうものなのか…。君の星、こと座のヴェガ。それから、はくちょう座のデネブとわし座のアルタイルで夏の大三角形」

一際強い光を放つ三つの星を、桐野の指が見えない線で繋ぐ。

「わし座のアルタイルは牽牛星。彦星のことだよ。夏彦星ともいう。ちなみに僕の下の名前、夏彦[ナツヒコ]っていうんだ」

「え?じゃ、じゃあ。つまり…」

氷織は少し驚いて、自分自身を指差す。

「織り姫と、彦星?」

次いで、夏彦を指差した。

「そういうこと」

夏彦は夜空を背にした時と同じ顔で、頷いた。



←[*] 2/3 [#]→
目次へ

MAIN
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -