恋愛方程式

恋愛、なんて計算してできるものでもないでしょう?
年齢も性別も経験も関係ない。
心と心の探り合い。
本音と本音のぶつかり合い。


***


「あの…急に、呼び出してごめんな」

こんな風に謝罪から始まる呼び出しを、高校に入学してから何度か受けた。
その内容に、いつもたいした変化はない。

「俺、沢田のことが好きなんだ。…だからも、し良かったらそ、の…俺と付き合っ、てくれないかな」

けれど今日の人は緊張しているのか、息をする位置がおかしい。

呼び出されたのは人もまばらな水曜日の放課後。
場所は特別教室棟と管理棟の間に作られた印刷室の裏。

相手は…確かバレー部の人だと思う。
僕より一つ年上の二年生。

名前は…ごめんなさい。
知りません…。
顔は見たことあるんだけどなぁ…。
そう思って、顔をじぃっと見つめてみる。
何だか唇も震えてるみたい。
額に汗もかき始めてる。

「あの、沢田?」

思いっきり顔を睨みつけてた僕に、相手は不信そうに問い掛けてくる。

「あ、ごめんなさいっ」

少し頭を下げ、相手の顔をうかがい見る。
困ったように少し、笑ってる。

うーん…怖そうな人じゃないし、断っても大丈夫だよね?
顔を上げ、口を開く。

「あと、あの…。返事も、ごめんなさい…」

今度は頭を深く、下げて。
その頭上に苦しげな声が聞こえてきた。

「そっか…んと、ちなみに、理由、とか…聞いてもいい?」

理由。
そこまで聞いてくるタイプには見えなかったけど…。
一応、答えておく。

「好きな人が、います」

「知ってる」

え?じゃあ、何で聞くのさ!?

「なっ…」
「今まで沢田にコクったヤツらの噂で聞いたんだけど、ソイツと付き合ってるワケじゃないんだろ?」

僕の言葉を遮るように、さっきよりも強い声。
ちょっと…怖い、かも。

「付き合ってるんじゃないならさ、まずは試しでもいいから、俺と付き合ってよ」

…何か、態度がだんだん横柄になってません?

「ごめんなさい」

ポケットに手なんか入れちゃってるし。

「試しだよ?違うと思ったらフッていいし、俺…大事にするから。なっ?」

なっ?って言われても…。

「……」

「俺のこと好きにさせてみせるから」

ちょっと、かなりしつこくないですか。

「…………、……」

「だんまりかよ。何か言えよっ!!」

大きな声に、びくりと肩が震えてしまう。
その瞬間
ガラガラッ
印刷室の窓が開いて、現れたのは。



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