君のうしろ
「じゃあ、お先に」
ドアを開けて、廊下に出ると軽く手を挙げた。
「ああ。ありがとな」
駿介も手を挙げて答える。
安西が扉を閉めかけて、思い出したようにその手を止めた。
「三上」
右耳を軽く示して、
「誰にも、言うなよ」
駿介の初めて見る顔で、安西は笑う。
黙ったまま駿介が頷くのを見届けて、扉は軽い音を立てて閉まった。
一人になった教室の窓際に立って、沈む夕陽を見つめる。
思いもよらない自分の衝動に、未だ心臓が速い。
安西の耳に、触れたいと思った。
どんな、柔らかさで。
どんな、温度で。
それは駿介の手に、伝わるのだろうか。
「マジかよ…」
駿介の呟きは、無人の教室にひっそりと消えた。
*****
いつでも、その背中を。
そして、秘密を。
見つめていられるように。
君のうしろの席を、望む。
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