君のうしろ
他愛もない話で、しばしば盛り上がりを見せつつ作業は順調に進んでいった。
窓から西日がさして、一日の終わりを告げる。
「よし…っと。やっと終わったな」
二人の作業もようやく終わった。
「お疲れさま」
そう言いながら、微笑を浮かべて両腕を伸ばす安西の髪も、夕焼け色に染まっていた。
その、腕にかき上げられた髪の隙間に何かが光るのが見えた。
目を凝らして、光のもとを探す。
安西の耳に、それはあった。
黒髪の隙間にきらめく、小さな銀の環と赤い宝石。
イケナイモノ、を見てしまった気分。
「安西」
「ん?何」
不思議そうに駿介を見返してくる安西。
その爽やかな出で立ちに、耳に光るものは不似合いに見える。
「それ、耳の」
駿介の一言に、ぱっと右耳を隠す。
隠したってもう、遅い。
「ピアス、禁止だろ」
「バレたか。先生にチクる?」
「そんなこと、するわけないだろ」
「良かった」
安堵する安西の右の目尻に、一本の笑い皺。
そのまま自然と、目尻から右耳に視線が流れる。
「っ…!!」
その時自分の中に湧いた衝動を抑えつける為に、下を向く。
両手を血管が浮き出る程、握りしめる。
「三上?どうかした?」
安西が、不思議そうに尋ねてくる。
「何でもっ、ない。予定あるんじゃなかったのか」
「あ、そうだった。そろそろ行かなきゃ」
時計を見て、少し慌てた声を出した。
「三上は?帰らないのか?」
「先生んとこ、行くから」
「そうか。なら、悪いけど…」
「いいから、さっさと行けよ」
頼むから、行ってくれ。
これ以上一緒にいたら、もう。
ドアの方へ向かう安西の制服の背中が、西日のせいで燃えるように赤い。
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