君のうしろ

放課後は、あっという間にやってきた。

英語科準備室に行くと、長机に並んだ大量のプリントが駿介を待っていた。

「先生達の合同会議用の冊子を作ってもらいたい」

「うぃす」

手順を教えてもらうために、一緒に作業をする。
思い出したように、担任が口を開いた。

「最近、ぼーっとしてる事が多いらしいな」

「べつに。そんなことないです」

作業をしながら答える。

「何か悩むようなことが?」

「悩みは…そりゃ、まぁ、いっぱいあるけど。ぼーっとしてるつもりはない、です。」

「恋の悩みか?」

「恋の悩みじゃない事が悩み?」

「そうか」

あきれたような、少し笑ったような。
そんな返事が帰ってきた。



暫く二人で作業をしたあと、担任は仕事があるからと言って去っていった。
ひとりで黙々と作業を続ける。


作業に飽きてきて、窓の外を眺めた時、ドアを軽く叩く音が聞こえた。

「三上、いる?」

その声は、紛れもなく安西のもので。

「安西?」

けれど、確証が欲しくて。
名前を呼びながらドアを開けて、安西を招き入れた。

「やっぱりまだ終わってなかったんだ。手伝うよ」

「え…?いや、いいよ」

本当は、手伝って欲しいのについ断ってしまった。
しかし安西は、

「予定があったんだけど、時間がずれたから、暇潰しに」

そう言って、右の目尻にしわを一本浮かべて笑った。

「暇潰しかよ」

不満そうな声をあげても、喜んでいることは隠せないだろう。

これで、少しは早く終わるかもしれない。



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