君のうしろ

席替えから四日目。
三上 駿介による、安西 直志観察日記。
その三。

英語が得意、らしい。
というか、勉強が得意。

駿介のクラスは、只今英語の小テストの真っ最中。
駿介の前に座る安西の右手は澱みなく動いて、シャーペンのカリカリという音が聞こえてくる。

駿介はというと、単語の2問目で通行止め。

シャーペンの芯を引っ込めて、安西の背中を軽くつつく。
安西がピクリと反応したのを見て、駿介は小声で囁いた。

『enviromentの意味ってなにー?』

『………ぅ』

小さな声で、返事があった。

『なに?聞こえないからもう一回…』

「三上。カンニングしたら0点」

冷たい声が駿介の頭上に降り注ぐ。
見上げると、英語の教師が意地悪そうに笑っていた。

英語の教師でもあり、クラスの担任でもあるその教師は、得体が知れない事で校内でも有名だった。

「まだ、してないデス」

「今からも、するな」

結局、駿介が解けたのは単語がいくつかと、記号で選ぶ問題だけだった。



「俺は、一生日本から出ない」

授業後、一人で勝手に決意を表明した駿介。
すると隣の席の山本が大声で笑い出した。

「あははっ!!なら、英語は必要ないね」

「じゃあ、修学旅行は国内組だな」

安西も駿介の方を向いて笑いながら言う。

「あ…修旅…は、別で。ほら、集団だし」

また、笑いが漏れた。

安西は頭の回転が早い。
そのおかげで突っ込みも鋭い。
ちなみに、修旅は海外組。

英語が得意…もとい、好きなのは洋楽をよく聴くからだそうだ。



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