君のうしろ

学校で席替えをする時、あなたならどんな席を望みますか?

仲のいい友達の隣?
眼が悪いから、最前列?
授業中眠りたいから最後列?
日当たりのいい窓際?
風通しのいい廊下側?
それとも…?


*****


その日、三上駿介[ミカミ シュンスケ]は朝から憂鬱だった。

登校中に自転車のタイヤがパンクし、歩いていたら道に捨てられたガムを踏んだ。
そして学校に着いてからも、ムカデの死骸が靴箱に入っていたり…と小さな不幸が続いていたのだ。


そんな駿介を更に憂鬱にしたものは、『席替え』だった。

それまでの駿介の席は廊下側の一番後ろ。
居眠りをするにも、趣味である『人間観察』をするのにも最適な席だったと言える。

ところが、新しい席は前から二列目の窓際と非常に微妙な席になった。

「ツイてないなぁ」

ため息混じりに席を移動する。
そんな駿介の前の席に座ったのは、安西直志[アンザイ ナオシ]だった。

「三上、俺のうしろ?よろしくー」

駿介よりツイていない、最前列の席のはずなのに笑顔で挨拶してくる安西。
真面目な外見からは想像もつかない、人懐っこい笑みに駿介は驚いた。
驚きながらも、口を開く。

「一番前だなんて、ツイてないな」

「うん。でも前の席も一番前だったから」

「ははっ!最悪だな」

「笑うなよ。ちなみにその前も、だ」

「…まじ?」

「まじ、まじ。大まじ。っていうか俺、一番前の席以外座ったことない」

「っげー!!俺よりツイてないな。安西」

「本当だよ。まぁ、窓際ってだけマシかな。教卓の前なんかもう、最悪」



一日が終わる頃には駿介を憂鬱な気分にさせた席替えも、それほど悪いものではなくなっていた。
駿介の横にはクラスの中でも割と可愛い女子が座ったし、安西とは話が合う。

友人、松江 耕一[マツエ コウイチ]とは離れてしまったが安西がいれば退屈はしないだろう。
そう思えるほど、安西が興味深い存在になった。
『人間観察』が趣味の駿介だから、尚更だ。



そうして、駿介の恋は始まる。



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