Key
どれくらい、待っただろう。
ドアの前に膝を立てて、顔をうずめていた俺は眠りかけていた。
だから、
「鷹大[タカヒロ]?何、してるんだ?」
そう声をかけられるまで泉が帰ってきたことに気が付かなかった。
顔を上げて、泉の方を見上げる。
「おかえり」
冷たい夜風に晒された俺の声は、少し凍えていた。
「ただいま。どうして中に入らないんだ?」
不思議そうな顔をして、問いかけてくる泉。
鍵をなくしたと言ったらどんな表情に変わるだろうか。
怒るだろうか?
それとも、呆れてしまう?
笑って「ばかだなぁ」って、言ってくれる?
口を、開くことができない。
「……」
「まぁ、いい。とにかく入れよ」
そう言って俺を立たせる泉。
「冷えてるな」
俺の背中に手を当てて、鍵を取り出しながら小さく呟いた声を耳が拾う。
鉄の塊がぶつかり合う音がして、鍵は簡単に開いた。
玄関に入ると、泉の飼い猫クルミが俺たちを出迎えた。
愛らしい声で、なぁと鳴く。
「ただいま、クルミ」
泉はクルミを撫でながら早々と靴を脱ぐ。
俺はドアの前に立ったままうつむいて、靴の先を見つめていた。
「早く上がれよ、寒いだろう?」
そんな優しい泉の声にも俺の足は動かない。
「……」
無言でいると、クルミの遠ざかる足音と共に、小さなため息が聴こえてきた。
そして、靴下のまま玄関に降りてきて俺の前に立つ。
俺の靴の先にぴったりとくっつけられる、泉の爪先。
それを見て、泉の存在をすごく近くに感じた。
恐る恐る、顔を上げる。
顔を上げている途中で、泉がキスをしてきた。
「んっ…」
突然のキスに驚いて、鼻にかかった息が漏れる。
凍えた吐息を吸いとるように唇が動いて、その感触に体の奥が熱を持つ。
「…っ、は」
抗議しようと唇を開けば、その隙に舌がするりと入ってきた。
「ん、…っ…」
泉が後頭部に手を回してきて、口づけは更に深くなっていく。
「は、…っ、ぁ…」
俺の体をドアに押し付けるようにして、激しくキスしてくる泉は、ケモノのようだった。
←[*] 2/6 [#]→
目次へ
MAIN