かわらないもの
学校から近いのは晃歩の家。
僕の家は晃歩の家から歩いて二分。
帰り道に、晃歩の家に来るようになったのは中学生の時だった。
そんな事を思い出しながら、いつものように晃歩の部屋に入る。
小学生の頃は、一度自分の家に戻って、ランドセルを置いてから遊びに来ていたんだっけ。
もう、あの頃みたいに、無邪気に笑い合うことはできない。
「旭?……どうしたんだ?」
部屋に入っても、突っ立ったままの僕の顔を、晃歩がのぞき込んでくる。
ただの友達として、晃歩の隣で笑っていられる程、子供じゃないんだ。
「あきほ…」
だけど、晃歩が他の誰かと笑い合っているのを見守れる程、大人でもない。
「加藤さんと、付き合うの?」
自分のつま先を見つめ、思ったままを口にする。
晃歩はため息らしきものをついて僕から離れ、ベッドに座った。
ドアに背を預けたまま、目を瞑って、答えを待つ。
否定する言葉を言ってよ。
まだ彼女はいらない、とか。
旭がいるからなぁ、とか。
お願い。
お願い…。
「まだ、分かんない」
ダメ。
「どうして…?加藤さんのこと、好きなの?」
これ以上言っちゃ、ダメ。
「……好きとかじゃないけど、告白されたのはじめてだから。やっぱ、嬉しいとは思うし」
ダメ。
「告白されたら、その人のこと好きになっちゃうような人だったんだ?晃歩って」
これ以上聞いちゃ、ダメ。
「まだ好きとは言ってないだろ。つうか、何だよその言い方」
ダメ、と抑える気持ちがあったのに。
全部言ってしまった。
「晃歩がはっきりしないからだよ。優柔不断で、みっともない。さっさと断っちゃえばいいのに」
「…っ…んだよ。旭はただの友達なんだから、そんなこと言う権利ないだろ」
全部聞いてしまった。
『ただの、友達』
勢いにまかせて、思ってもいない言葉を口にした。
晃歩もそうだったかもしれない。
だけど、ずしりと重く心に残った言葉。
ああ、そうなんだ。
晃歩にとって、僕はただの友達なんだ。
でも、僕はもう、あの頃とは違う。
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