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最良の選択をしたと思っていたが結局、必死に守ろうとした友さえ、失ってしまった。
樫井にどんな顔で会えばいいか分からず、何度かきた連絡も全て無視した。
式の招待状を貰った時も、別の友人を通して受け取り、俺はポストに投函しただけ。
花婿控え室のプレートのあるドアを見つけて、ノックしようと右手をあげる。
一瞬、躊躇ったがここまできたのだからと思い切って焦茶の扉を叩いた。
すぐに、どうぞと返事があって、その声に胸が一杯になる。
友の声を懐かしむ、心の内の十八歳の俺。
控え室に足を踏み入れた俺に、樫井は驚いたように瞬いて、それでも笑ってくれた。
「久しぶりだね。来てくれて、ありがとう」
「うん」
「みんなには会った?」
「うん。ロビーで。内山、すげー太ってんのな。面影ゼロ」
「学生の時はあんなにカッコ良かったのにね」
他愛もない会話のあとの間隙。
俺が樫井を見つめると、困ったように笑う。
樫井も、同じように緊張しているのかも知れない。
喉を鳴らして、言葉を振り絞った。
「あのさ、卒業式の日、さ」
「待って。その話は・・・」
戸惑う樫井を見る事が出来ず、樫井のうしろの大きな鏡に映る自分の足を睨みつける。
「言わせてくれ。あの時・・・、傷つけてごめん」
自分の心さえ思い通りにならなかった、あの春の日。
「ホントは、俺」
樫井の恋心を受け入れられるほど大人ではなかった。
無邪気に喜べるような子どもでもなかった。
中途半端なまま、階段の中程で立ち止まっている十八歳の自分がもどかしい。
「嬉しかった。ありがとう」
十年経ってやっと口にする事が出来た。
「それから、結婚おめでとう」
満面の笑顔で祝福すると、樫井は少し、泣いていた。
あの春の日。
もしも俺が素直に樫井の気持ちを受け入れていたら、今とは異なる二人の形があったのだろうか。
もうそれを知ることはできないけれど、今は。
十年ぶりに取り戻した友の幸せを、ただ願っている。
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