君の涙が星になるなら

夜空を見上げるセイさんの横で大学の課題を広げる。

時折、考え込むフリをしながらセイさんの横顔を見つめては、はしたない衝動が頭をよぎった。

首を振って誘惑に耐え課題を終わらせると、子どものようにセイさんのキスをねだる。


頬に、唇に、瞼に、額に。


思いつく限りのセイさんの肌に口付けて、キスをする場所がなくなったら、手を伸ばした。




俺が、セイさんについて知っていることは少ない。


お好み焼きが好きなこと。
ドライヤーの音が嫌いなこと。
一日中空を見ていても飽きないこと。
それから、体温が低いこと。


始めて唇に触れた時、その冷たさに驚いた。

躊躇いを見せた俺の唇を、セイさんの人差し指が、そっとなぞって。

何故だか、ものすごく悲しくなったのを覚えている。


拒まれなかったことを喜ぶべきはずなのに、セイさんの瞳に見つめられて、自分の存在がとても小さな物に思えた。

キスもセックスも、セイさんにとってはあまり意味を持たない事なんだと本能的に感じ取って。

それでも、触れずにはいられない。


冷たい肌を温めるように優しく撫でると、熱を持ってほのかに色づく白い肌。

他の誰にもしたことのないような、心のこもった指先を、全神経を、セイさんに捧げた。




真夜中。

上半身だけを起こして、窓を見上げるセイさん。

闇の中で頬に光るのは、一粒の雫。

理由を問うことも、拭ってあげることもしたけれど、セイさんは毎晩、涙を流す。

何もしてあげられない俺が、セイさんの為にできるのは、見ないふりをして、祈ることだけ。


セイさんが、悲しい思いをしませんようにーー。


俺の祈りを聞き届けたかのように、窓の向こうで流れた星がセイさんの横顔に重なった。



自分で頬を拭って、腕の中に潜り込んできたセイさんの身体を、しっかりと抱きしめた。

目が覚めたらセイさんの姿が消えていた、なんてことにならないように。



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