君の涙が星になるなら

願わくは。

朝がきてもこの腕の中に。





玄関のドアを開け、鼻歌混じりに部屋の中に向かって声をかけた。

「セイさーん。ただいまあ」

スーパーの買い物袋を持ったまま靴を脱ごうとして、バランスを崩す。

倒れないように慌てて壁に手をついた所で、とことこと足音が近づいてくるのが分かった。

俺のただいまに、無表情でおかえりを言いながら、袋を受け取ってくれる同居人。

ぶかぶかのシャツと裾を折り曲げたズボンを着ていると、背が低いことを差し引いても幼く見える。

俺よりかなり年上らしいのだが。



袋を開けて、買ったものを片付けながら夜ごはんのメニューを考える。

何が食べたいか問うといつものように、お好み焼きと返事があった。


料理を、人に振る舞うのが好きだ。

俺の作った料理を食べて、幸せそうな顔になるのを見ると、自分まで幸せになれる。

それが好意を抱く相手なら尚更。

だから俺は、セイさんの為にお好み焼きを焼く。



食器を片付けて、二人で風呂に入る。
これも、ここ数ヶ月の日課だ。

始めはシャワーの使い方なんかが分かるかな、と気になって様子を見にきた。

それくらい危うかったのだ、始めて会った時のセイさんは。

放っておいたらきっと湯船で溺れかねなかっただろう。

そんなセイさんを見て、今までよく生きてこれたなあ、と思った。

日本という異国の路地裏で、膝を抱えて泣いていた理由も推し量られるというものだ。


「目ぇ瞑っててね」

シャンプーの泡を後ろからシャワーで流し、トリートメントをなじませる。

水滴が、白い肌の上を無防備に滑ってゆく。

言われた通りにぎゅうっと目を閉じて、されるがままになっているセイさんは小動物のようで可愛いらしかった。

風呂を出て、タオルでセイさんの頭を乾かす。

ドライヤーは嫌いなようで、温風と轟音を振り回す俺の手をじっとりと見つめてくる。

櫛を入れると、つやつやと輝く美しい髪。

濃い色の空に流れた星の軌跡のような色のブロンドを指に絡める。

するりと指先から逃げていく髪の束に頷いて、自分の髪を乾かした。



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