It's a small world
一つ年上の中学三年生で、大人っぽくて、弓道も上手いらしい。
頬を染めて初恋の人の話をする馨は、僕じゃなくても見とれるほど、可愛らしくて魅力的だ。
「僕にできることはあんまりないかもしれないけど…。頑張れ、馨」
「ありがとう。響」
ぎゅう、とクッションを抱きしめ直してストライプの影に顔を隠す馨。
僕は、失ってしまった。
かけがえのない半身を。
こみ上げてくる喪失感に胸が痛む。
ぽっかりと穴が開いてしまったような、なんて生易しい表現では足りない。
胸に無数の矢を射られて、引き抜きたくても、引き抜けなくて、じわじわと傷口だけ深くなっていくような痛み。
刺さったままの矢は僕の心が動くことを許してくれず、ただ血だけを流させる。
見えない矢を確かめるように胸元を抑えて、短く息を吸った。
声もなく涙を流しても、彼の事で胸がいっぱいの馨はクッションに顔をうずめたまま、こちらを見もしなかった。
僕は黙って立ち上がると、部屋を出て、ドアを背にして廊下の天井を仰いだ。
涙がすうっと零れて、耳の横をつたって首筋へと流れていく。
嗚咽を堪えるために奥歯を噛み締めると、口の中が切れて血の味が広がった。
やがて僕らは別々の高校に入学して、新しい友人ができ、僕にも好きな人ができる。
けれど、それはまだもう少し先の話。
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