朝は誰の為にあるのか

迎えに来て。

涙が涸れてしまう前に。





ユウジの部屋から空だけを見て、今日も一日を過ごした。

オレンジ色の飴玉のような夕陽が暮れる頃、部屋の主は帰宅した。

「セイさーん。ただいまあ」

玄関から聞こえてきた声に、窓を離れてユウジを出迎えに向かう。

スーパーの白い袋を揺らしながら左手を壁について靴を脱いでいた。

絶妙なバランスのまま、近付くわたしの姿を認めると、にっこりと笑う。

「ただいま」

「おかえリ」

袋を一つ受け取って、ユウジの大学やアルバイト先での愚痴を聞きながら部屋へ。

大学生らしいワンルームの小さなキッチンはよく整頓されていて、料理好きなユウジの一面が表れている。

「セイさん、夜ごはん何が食べたい?」

「…オコノミヤキ」

「またあ?」

毎日繰り返されるやり取りに笑いながらも、ユウジがキャベツを二つも買っていたことを、知っている。

毎日お好み焼きを食べたがるわたしの為に。


折りたたみ式のテーブルの上にシーフードの入ったお好み焼きと、自分の為の魚の煮付けを並べるユウジ。

わたしはというと、もうお好み焼きに夢中で、ひらひらと鰹節の踊る様を凝視していた。

「怖い顔になってるよ、セイさん」

言われて、む、と眉を上げたらユウジは笑って向かいに座った。

「いただきます」

「いただキます」

かりかりに焼けたお好み焼きの端にフォークを入れる。

最初に食事をした時、何も言わずに出されたフォークを使ってから、箸も上手に使えることを言えずにいるままだ。

フォークに刺したソースの色に輝く欠片を頬張ると、何とも言えない香ばしい味が口の中に広がった。

頬を緩めるわたしを見つめて、ユウジはそれ以上に幸せそうな締まりのない顔をしていた。



片付けをして、風呂に入れてもらい、課題をするユウジの横で昼間と同じように窓を見上げて過ごす。

どれくらいそうしていただろう。

ふとユウジの唇が頬に触れるのを感じた。


ヒトの唇は、宇宙で一番柔らかいものだとわたしは思う。


甘えるように繰り返される口づけに応えて身体を預けると、ユウジの腕が伸びてきた。


抱きしめられて、そのままベッドの上で触れ合った。



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