Mr.Vampire!
「いい匂いがする」
ソファに座って本を読む俺に跪くような格好で身体をすり寄せてくる恋人に、こんなセリフを言われた。
「邪魔するな」
左の腿にくっつけられた細身の胴を避けて右に移動すれば、それでも微笑みながらすり寄ってくるから、たちが悪い。
「どこからかなー」
わざとらしく鼻をふんふん鳴らして、本を持つ腕に微かに鼻先を触れさせては、俺の反応を楽しんでいるのだ。
動じない振りをして無視を決め込んだ俺に、犬気取りの彼はどうやらご不満のよう。
ソファに腰をかけ、腕だけでなく他の場所にも同じようにし始めた。
服の上から肩を。
脈を打つ首筋を。
薄い皮膚一枚の頬を。
とびきり敏感な耳を。
邪魔だと思っていても、柔らかい唇で啄まれれば、身体が反応してしまうのは仕様のない事。
左半身に神経が集中してしまって、本の内容などちっとも頭に入ってこない。
「っ…あー、もう!分かったって。やめればいいんだろ、やめれば!」
本を閉じて、きっ、と左を睨むと余裕たっぷりの笑顔があった。
「本は明日までおあずけね」
明日まで読めないなら、仕事帰りに無理して新刊を買いに行く必要もなかった。
今度から休日前に本屋に行くときは、よく考えてからにしよう。
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