ROSE of YELLOW
食事が始まっても、ほとんど口を開くことができず、うまくできたと思った料理も味気なく感じでしまう。
誉さんも一口目を食べて、おいしい、と漏らしたきり何も言わない。
もそもそと料理をたいらげて、すぐに食器を片付け始める。
俺の横に立って、手伝おうとする誉さんに冷たく言い放った。
「まだ仕事残ってるんじゃないの?俺やるから仕事してていいよ」
「……」
何も言わずにいる誉さんの手から食器を取りあげて、洗う。
「……秋平くん、怒ってるの?」
「別に」
「電話のことなら、謝るよ。……その、市場でお世話になってる人だから、切りづらくて…」
「それにしては、楽しそうに話してたけど?」
言ったあとにすぐ、しまった、と思った。
誰がどう聞いても、ただの子供っぽいヤキモチだ。
「……秋平くん」
恥ずかしくて、誉さんの方を見れずに、がしがしと皿を洗い続ける。
「ごめんね」
「っ…謝らなくていーよ。仕事なら仕方ない、って分かって…」
「違うんだ」
遮るように言われて、思わず横に首を向けてしまう。
「僕…あの、……」
下を向いて、少しもじもじしながら俺のシャツの裾を握る誉さん。
「あのね、秋平くんに嫉妬してもらえるの……嬉しい」
下を向いたまま、誉さんは続ける。
「ごめん。不謹慎だよね。秋平くんは嫌な思いしてるの、にっ…!?」
思わず、誉さんを抱きしめてしまった。
泡まみれの、手で。
だって、誉さんがカワイイから。
耳を真っ赤にして、俺の腕の中でびっくりしたように硬直している。
電話の相手に嫉妬したとか、ワイン開け忘れたとか、もうどうでもよくなった。
キスしようと顔を近づけて、ふと思う。
「俺、にんにく臭いかも」
「僕もだよ」
くすり、と笑って。
誉さんから俺の唇に触れてきた。
俺からも、深いキスを返す。
誉さんの唇からはいつだって花の香りがする。
それを知っているのが、どうか、俺だけでありますように。
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