涙のくちづけ
想いは、光になった。
仕事を終えて、うつらうつらしながら駅のホームに立っていた。
右手に提げた鞄が、何かの冗談のように重く感じられる。
入社して四年、始めて任された大きなプロジェクトの為、俺の身体は疲労困憊だった。
まぶたも、右の肩も、気持ちも。
線路の向こうのトンネルのように、深く重い。
靄のかかった耳に、アナウンスが流れ、電車が来たことを告げる。
パァン、と高い音がして右を見ると、強い光に目が眩む。
「…っ!」
反射的に右手を上げようとしたが、鞄が邪魔をして、ふらりと足がもつれた。
そのまま倒れてしまえば、線路に真っ逆様だったかも知れない。
「危ない!」
どこかで聞いたことのある声がして、俺の身体は後ろに引っ張られた。
「…、あれ?」
固いコンクリートの上に尻餅をついて、目の前が急にクリアになる。
俺の横には、
「危ないなあ、牧野…」
ため息をつきながら立ち上がる、見覚えのある顔。
上げた目線の先、淡い色の髪に、ホームの電灯の強い光が透けた。
「お前……平井、か?」
差し伸べられた手を取って、俺は立ち上がる。
「久しぶり。牧野」
そう言って、八年ぶりに会った同級生は、昔と変わらぬ顔で笑った。
俺と平井が出会ったのは、高三の春。
進学と就職で二年生からクラス分けされる高校で、三年から進学コースに切り替えた俺は、明らかに浮いていた。
頭の良さそうな奴らに囲まれて、自分がひどく馬鹿になったように感じていたし、向こうも俺をそうだと思っていたに違いない。
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