Chocolat Kiss
「……分かった」
彼はそれだけ言って、ソファの横に置かれた紙袋の中から一つ箱を取り出す。
無頓着に包装紙を破って、僕でも知っている有名な専門店の箱から手にしたのは、輝くようなハートの一粒。
彼の横に座って、僕はその鮮やかな色を見つめた。
――バカだ、僕。
こんな気持ちになるなら、素直に自分で作ったものを出せば良かった。
一番に食べてもらえるあのチョコレートが。
羨ましい、なんて。
パキッと軽い音を立てて、彼が最初の一粒を食べた。
甘い香りに、胸が痛くなる。
今、僕の気持ちを溶かしてチョコレートを作ったら、きっと絶品ができるはずだ。
「おいしい?」
「うん、美味いよ」
ホワイトチョコのトッピングされた次を手に取って、彼はそれを僕の唇の前に差し出した。
「僕は、いらない」
――食べられないよ。
見知らぬ誰かの、思いの一粒。
チョコレートには、色々な気持ちが詰まってる。
「美味いけど、俺が欲しかったものとは違った」
彼の呟いた一言に、はっと顔を上げる。
口を開こうとしたら、唇の隙間にチョコレートを詰められてしまった。
「俺が、欲しかったのは――」
言葉の先は、溶ける。
彼の柔らかい唇が、僕の唇に重なって、極上の甘さが口の中に広がった。
最初に素直になれなかった分だけ、ねだるように彼の背中に腕を回す。
唇を離して息をつくと、甘い香りが僕の吐息からも薫った。
「もう一つ、食べる?」
すっかり艶を帯びた彼の唇が、ナッツの乗ったチョコレートをくわえる。
僕は何も言わずに、その甘さごと口の中に飲み込んだ。
味わうように舌を絡めると、その上で溶けていくのはカカオの香り。
誰かの痛みを忘れてしまう程。
とろけるような、甘い口づけをして。
やっと自分の気持ちに素直になることができた。
「――…好き」
唇の隙間から小さく囁いた言葉はきっと。
チョコレートよりも、甘い。
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