Chocolat Kiss
特別な日だから、と思って、ほぼ無理矢理に恋人の部屋の鍵を借りた。
一年前の今日、僕から気持ちを伝えて。
一月を待たずに、返事をもらった。
そんな日を、今年も二人で忘れられない一日にしたいと考えた僕。
なるべく早く帰ってきて、預かった鍵を使い、部屋に入り、キッチンを借りた。
料理は苦手だけど、時間をかけて丁寧に作れば何とか形にはなるものだ。
もうすぐ帰る、と恋人からの連絡があったので、待ちきれずに盛り付けを開始する。
――喜んでくれるかな。
最後の一皿を盛り付け終えると、タイミング良く玄関のチャイムが鳴った。
「おかえりなさい」
部屋の中から鍵を開け、エプロン姿のまま恋人を出迎える。
「ただいま」
見つめ合ったまま、二人で照れ笑い。
まるで、新婚さんみたいだと思った。
けれど、そんな幸せな気持ちは彼の右手に提げられた紙袋の中身を見て、一瞬にして消えてしまう。
飾りも何もないシンプルな袋の中には、カラフルな包みやリボンで飾られた箱、箱、箱。
僕の視線を感じたのか、彼は慌てて、
「義理チョコだよ」
と困り笑いを見せた。
でも、僕は知ってる。
たくさんの箱のうち、きっといくつかは本気チョコだって。
ずいぶん前から準備して、いつ渡そうかドキドキして、もらってくれるか不安に思う。
一年前、運良く気持ちとチョコを受け止めてもらえた僕は、箱の向こう側にいる彼女(もしかしたら彼)たちに、申し訳ない気持ちになった。
静かになった僕と、そんな僕に気をつかう彼。
二人で食事を平らげて、彼は少し期待外れといった様子で首を傾げた。
「デザートは?」
準備はしている。
冷蔵庫の中で、今日のメインが首を長くして、出してもらうのを待っている。
けれど。
「僕のは、失敗しちゃったから。もらったチョコを食べてよ」
紙袋の中がチラついて、席を立つことができなかった。
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