みつばちとキス

昌也の横からひょいとテーブルを抱えて、さっさと朋己の部屋へと運んでしまった。

「あ、ありがとう、爽真さん」

ふと鼻をついた爽真の香りに、昌也は頬を染める。

――爽真さん、いい匂い。

周りにいる同級生や、塾の友達や先生、兄。
誰とも雰囲気を異にする爽真に、昌也は惹かれていた。


自分の感情はよく理解できないままだったが、爽真が近くにいると嬉しい。

頭を撫でられたりすると、胸がぎゅうっとなって痛いのだ。

今も、不意に香った爽真の匂いに鼓動が止まらない。


ぼおっとしていると、爽真の呼ぶ声がしたので、慌てて兄の部屋へ戻った。




分からない所があったら教えてもらいながら、真面目に勉強をして時間が過ぎた。

時計を見て、ふと口を開く爽真。

「…そろそろ帰ろうかな、おばさんも帰ってくる頃だよね」

「えー!爽真さん帰っちゃうの?泊まっていけばいいのに」

「お前がそれを言うなよ」

窘める朋己にべえっと舌を出して、昌也は爽真の腕を引っ張っる。

「ね。兄ちゃんの部屋汚いし、おれの部屋に泊まってもいいからさ」

爽真はうーん、と曖昧な返事をしながらも、引き止められて、内心嬉しそうだった。

「部屋汚いのは一緒だろ…。ホントに爽真が好きだな、お前」

兄の言葉に、一瞬にして顔をまっ赤にする昌也。

「な、な、にゃに…っ、!」

反論しようとして口が回らず、両手で口を抑えて、バタバタと部屋から出ていってしまった。

「…何、今の」

「…さあ。僕にもよく」

分からない、と続けようとしたが、昌也の様子が気になったので、爽真は朋己を部屋に残して廊下へ出た。


「昌也くん…大丈夫?」

ドアのすぐ横でしゃがんでいる昌也がいた。

爽真も膝を折って、その顔を覗きこむ。

口を抑えたまま、真っ赤な顔をして、眉を下げた昌也に、爽真は不覚にもときめいてしまった。



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