星の声がきこえる

「何…?いつものお星様マメ知識はないのかよ」

夏彦の瞳の、いつもと違う色を感じ取って、氷織はうろたえるように口を歪ませた。

視線を合わせたまま、さらに夏彦が目を細める。

氷織から見ると、眼鏡のレンズが白く反射して、表情があまり分からない。

「…夏彦?」

何も言わないままの夏彦に不安を感じて、氷織は一歩足を踏み出す。

距離を縮めて、目線が変わるとお互いの瞳がよく見えた。

「好きだよ」

まっすぐに、氷織の瞳を見つめたまま夏彦は呟く。

「氷織が、好きだ」

その言葉が、友達として、という意味ではないことを。

氷織はすぐに理解した。

夜空を見上げる時よりもひたむきな瞳をした夏彦が、目の前にいたから。


目を見開く氷織に、今度は夏彦が歩んだ。

文字通り、氷のような指先に自分のそれを絡ませて。

強く、握る。

「抱きしめても、いい?」

静かな夏彦の言葉に、答える事のできない氷織。

頭の中の情報は、処理できる量をとっくに超えている。

辛うじて指先に力を入れると、それを肯定ととったのか、夏彦は繋がった手を引いた。

氷織の顔が、背の高い夏彦の肩に自然とのる。


公園の木々の黒い木立は、星空を覆い隠すように重くのしかかって、月の光がなければその境が分からない程。

木々の影から逃れた星空が、氷織と、氷織の体を包んだ夏彦の背に降っていた。


夏彦の体温が、触れた箇所から流れ込む。
そのぬくもりは、氷織を素直にさせた。

「オレ、も」

ぎゅっと、まぶた閉じて、夏彦の背に腕をまわす。

「……スキ」



闇に、星の光の溶ける音が。
きこえた気がした。




真夜中の公園。
幽かなる星の声。

寒さを溶かすように抱き合う二つの星が。
地上に、輝いている。



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