JUNE BRIDE

結局俺の首を前に向かせたのは、バスが散らす水の音だった。

やっと来たバスに、俺が先に乗り込む。

男は俺から少し遅れて運転席から近い席に座った。

俺は一番後ろに腰かけて、制服の胸元をきつく握り締める。


この動悸は、何だ。


跳ねる心臓の音が、耳を熱くするほど激しい。


ドクリ。
ドクリ。


深呼吸を繰り返して、何とか落ち着いた頃に下車するバス停についた。

バスの狭い通路が、こんなに長く感じられたことがあっただろうか?

その男が座っている席が近づくにつれて、また鼓動が踊りだす。


彼の横を、平静を装って通りすぎ、おぼつかない足取りでステップを降りた。


ちらりと見上げたバスの窓。

雨に濡れたその窓の向こうに、彼の顔が見えた。

切れ長の目に、

優しさをおびた口元。

すらりとした鼻筋が、顔のバランスを整えている。


ほんの一瞬

目が、

あったような気が、した。




跳ねる鼓動は疑いようもなく。

それを、恋だと告げていた。




家に帰るまでの短い道のりの間に、彼についての色々な事を考える。

年齢は?

家はどこだろう?

いつもバスで通勤するんだろうか?

あの、ピンクの傘は自分の趣味なのか?

それとも、彼女のもの…?



俺はまるで、六月の花嫁のようにため息をつく。

彼についての、ただそれだけのことで。



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