DEAR
ドアに肩を預けて大海を見つめていたワタシを、首が動いて、ガラス玉の瞳が捉える。
「おはよう。気分は?」
大海は少し複雑そうな面もちで、
「おはようございます、マスター。気分は…そうですね。大丈夫、みたいです。ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」
と頭を下げた。
「ノイズもないか」
「はい。電源をオフにして充電する方が、負担は少ないですし。ノイズはなくなっています」
耳を塞いだり、じっとそばだてたりしながら、真剣に答える大海。
ワタシも自然な大海の様子に安堵して、ため息をついた。
「今度から、夜の充電はオフにしてするといい」
「ですが、それではマスターの朝の支度をお手伝いすることができません」
ワタシの提案に異を唱える大海を諭すように、ゆっくりと言葉を発する。
「ワタシの朝の支度や朝食より、大海がきちんと動けるかの方が、大切な事だ」
ベッド脇に、所在なげにして大海が立ち上がった。
こちらを、何とも言えない目の色で窺って、それから、もじもじと床に目線を落とした。
「マスター、あの………」
目線を合わせるより、わざとそうしないことで、照れや、喜びを表現する様は、人間味の溢れる仕草だ。
「……ありがとう、ございます」
僅かな沈黙と、絶妙な間。
礼を述べる、震えた声も。
何もかも、アンドロイドとは思えない。
これも、友人が、大海に一心に愛情を注いだからだろうか。
夜は電源をオフにして充電をする。
この案によって、大海の不具合は改善が見られた。
毎朝、ワタシが電源を入れて、気分は?ときくのが朝の挨拶になった。
そのたびに大海は頭を下げ、朝の支度が手伝えない分、掃除や部屋のメンテナンス、夕食の料理も、精力的に取り組む。
そして必ず、ワタシが仕事から帰宅すると、大海は飛び跳ねるようにして迎えてくれた。
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