DEAR
充電用のコードと、コンセント一つあれば、設備としては事足りるにも関わらず、専用のベッドと、デスクと電子端末。
革張りの、いかにも座り心地のよさそうな一人掛け用ソファは、縦長の大きな窓の横に置かれ、外の景色を見るのにちょうど良いだろう。
大海の耳の後ろにある、充電用のソケットを確認する。
両耳の後ろから無機質なコードが伸び、それが途中から一本に縒り合わさって、ベッドの縁に備え付けられたコンセントへ。
ベッドに横たわり、目を閉じて、まるで眠っているかのような大海の横顔を、充電中を知らせる青白い光が照らしていた。
暗い海に棲む、夜光虫のように。
儚げな、それでいて力強いその色は、大海の、アンドロイドの命の色だ。
特殊シリコンの白い輪郭が透けて、鋼の身体の内部で、電解液が同じく青い色に輝いている。
大海の膚[はだ]にそっと、耳をあてる。
僅かに温度の残る膚の下から、潮騒が聞こえないのが不思議な程だった。
静かな眠りを確認して、ワタシは大海の部屋をあとにした。
翌日、ワタシは目覚めるとすぐに、大海の部屋へ向かった。
昨夜から、一ミリも動いていないままの大海の耳の後ろに手ををのばし、コードを抜く。
右耳の内側にある電源スイッチを入れると、電子音と共に起動が始まった。
大海が起動するまでには暫く時間がかかるので、その間に着替えを済ませ、身支度を整える。
顔を洗い、髪をセットして再び大海の部屋へ行くと、丁度起動が完了した所だった。
横たわったまま大海は、パチパチと瞬きを繰り返し、ゆっくりと身体を起こす。
鋼の身体の重みで、マットレスのスプリングがギシギシと軋んだ。
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