DEAR
大海のノイズ、内部の電子回路の不具合は、身体[ボディ]や部品[パーツ]の老朽化ももちろんだが、容量に起因があると考えている。
ワタシは大海の二人目のマスターだが、大海は一人目のマスター、つまりワタシの友人の記憶を削除[デリート]していない。
本来、主人が変われば彼らの記憶は削除され、リセットされる。
新しい主人に仕えるのに、前の主人の記憶が障害になる場合があるからだ。
けれどワタシは大海のリセットをしなかった。
大海と友人の話をしたかったし、彼の記憶があってもワタシに仕えるのに、妨げになることはない。
何よりも。
大海の記憶を削除しない、というのが、条件でもあった。
ワタシが、この部屋と、部屋にあるもの全てと、大海を譲り受ける為の。
大海を譲り受けた後、リセットをして、友人の話をする事はもちろん可能だ。
写真か何かを見せ、これが、君の前のマスターだよ。
ワタシの友人で、君の生みの親だよ、と。
そう。
大海の一人目のマスター、立木 洋夏[たちき ひろか]は高名なアンドロイドの研究者だった。
日本で作られたプロトタイプ百体の、全ての制作に関わった、正にアンドロイドの『父』とも言える人物。
大海をはじめ、プロトタイプのアンドロイドを何体か個人的に所有し、彼らに研究を手伝わせた。
アンドロイドがアンドロイド開発の研究をするという、不思議な図式も、立木博士が試験的に行い、現在では世界レベルでごく当たり前に取り入れられている。
だだの研究対象や商品としてではなく、働く上、生きていく上でのパートナーとして、立木博士はアンドロイドを選んだ。
そして、その彼が最も可愛がったのが、大海だ。
洗い物を終えたワタシは、大海の部屋に行き、充電の様子を確かめた。
この部屋も、アンドロイドには十分すぎるほど広い。
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