DEAR

ソファに戻り、テーブルの上においた映像投影端末機のスイッチを入れ、画面を目の前に出す。

空中に浮いた画面を操作して、読みかけの本のファイルを取り出した。

操作の機械音が止むか止まないかのうちに、急にBGMが途絶え、聞こえなくなる大海の鼻歌。

読書を再開するワタシに気を遣ったのだろうか。

あれはあれで味のあるBGMだったのに、と少し残念に思った。



何ページか本を読み進め、ちらとキッチンの方を見ると、大海がまだシンクの前に立っていた。

不思議に思って、ソファから腰を浮かせると、どうやら洗い物はまだ終わっていないようだ。

「大海、どうした?」

慌てて大海の側に行くと、右耳を抑えて、眉を寄せている。

嫌な、予感。

「ノイズが、するのか?」

顰めっ面をしたまま、大海は目線だけをこちらに向ける。

ガラス玉の瞳は、不安そうな色に染まっていた。

「すみません。…何せもう、おじいちゃんですから」

笑ってみせようとする大海に、無理はしなくていい、と告げ、洗い物を代わることにする。

「一度電源をオフにして、充電してみろ。ここは、いいから」

自室に行くよう促すと、大海は申し訳なさそうにしながらも、おとなしく部屋へ行った。




外見に変化のないアンドロイドの実年齢を推測するのは、難しい事だ。

大海のように、外見は二十代そこそこでも、プロトタイプでかなりの年代「者」もいるし、老人の姿でも、最新型の者もいる。
もちろん逆に、三十年以上稼働している、幼児のアンドロイドも。


進化の速いアンドロイドの歴史からすると、大海の機能はアンティークと言っても過言ではない。

食事も摂らない。
汗や涙などの体液(アンドロイドにとっては電解液)の分泌もない。
内蔵バッテリーは小さく、一日に何度も充電を必要とする。

その上、充電には長い時間がかかるし、更に電源をオフにして充電をすると、起動にも時間がかかるのだ。

おそらく、容量も最新型の十分の一程度だろう。



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