DEAR

食卓には、銀のスプーンとサラダの盛られた白い器。
カレー用の大皿は和風の焼き物で、友人から譲り受けたものだ。


この部屋と、部屋にあるもの全てと、大海とともに。


大海にとって、ワタシは二人目のマスターになる。

本来、ワタシの友人の研究の助手のようなものを勤めていた大海にとって、家事は不得手の分野に入る。

けれど大海は熱心に学び、その成果を大いに発揮してくれた。


このシーフードカレーも、大海の努力の賜物だと言える。


スプーンで白米の山を崩し、ルーをつけて、口に運ぶと、スパイスの香りと魚介の出汁が広がって、その少しあとにピリリと程良い辛味。

「いかがですか?」

ミネラルウォーターをグラスに注ぎながら、大海がきいてくる。

「美味しいよ。辛さもちょうどいい」

「良かった。最近手に入らなくなってしまったスパイスがあったので、少しいつもと味が違うかな、と思ったのですが…」

「ああ、確かにコリアンダーが入っていないな」

ワタシがスパイスの名前を口にすると、大海は驚いて目を丸くした。

赤外線機能も、暗視カメラも、拡大鏡もついていない、本当にただ『視る』為だけの、ガラス玉の瞳。

けれど、黒い玻璃[ガラス]の瞳は繊細な瞳孔の動きも、豊かな表情も、瞬きさえも、まるで本物のように再現する。

「さすがマスター!仕事で鍛えた舌の感覚はやっぱり特別ですね。僕は味見ができないので、細かな味わいまでは分かりませんから」

羨ましそうに、ワタシがカレーを食べ終わるのを待って、皿を下げ、デザートまで準備してくれる。

ここまで完璧に料理を作ってみせるのに、当の本人がそれを食べれないというのは、不憫な話だとワタシは思う。

「ごちそうさま」

デザートの冷たいワインゼリーを平らげて、食器をシンクに持って行くと、大海が鼻歌を歌いながら洗い物をはじめた。


少し調子はずれな鼻歌をBGMに、ワタシは読書を再開することにする。



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