不慮

「…おはよ」

ごく当たり前の朝の挨拶をされて、一瞬拍子抜けするが、むくりと起こされたその体に残る痕が、すぐに緊張を取り戻させる。

「?どしたの。変なカオして」

「それ…」

首筋から鎖骨、胸の突起の周辺の赤黒く鬱血した痕を指差したまま、言葉を続けられずにいると、ああ、と目線を落とす彼。

「虫刺されには、まだ早いかな」

下半身にかかっていた毛布を持ち上げ、その中を見つめる。

「痕つけるの、クセなんだねえ…。知らなかった」

毛布の下の彼の下肢は、局部は、一体どんな有り様なのだろう。

呆れたように、口の端を上げたその笑みは。

「ま、知らなくて当然か」

清々しいほど、毒々しかった。




何も言えずにいる俺に、幼なじみの気安さをちらつかせて。

「後悔、してるの?」

落ち着いた声で、彼は問う。

「なかったコトに、したい?」

無言で小さく頷く俺に、渇いたように、ぽとりと落とされた言葉。

「…ホント、酷いこと、するね」

既視感のある台詞に、眉を寄せて顔を上げる。


「なかったコトになんか、してやらないから」


いたぶるような言葉とは裏腹に、苦渋に満ちた彼の表情。




そんな顔をする位なら、いっそ罵倒してくれればいいのに、と俺は思った。


そうすれば、俺のしたことを謝罪して、昨夜の前に、戻れるかもしれないのに、と。



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