不慮
「…酷いこと、するね」
アルコールの靄ががかかる頭の中に、掠れた声が響いた。
それは聞き慣れた同性の幼なじみのもので。
けれど、聞いたこともないような色を孕んでいた。
叫び、だったのかもしれない。
――今にして思えば。
薄暗い部屋の中。
乱れたベッドの上、俺の隣で寝息をたてるのは、見知った横顔だった。
――俺は、一体何をした?
有り得ない状況に、躊躇いを隠せない。
こめかみの辺りが鈍く、痛む。
右手で前髪をかき上げて、そのまま頭を抱えるように目を閉じた。
覚えのある、どこか甘い、腰の痺れ。
左手を動かそうとして、それを握る自分と同じくらい、骨張った指先に気付く。
逸らすようにベッドの下に目を向ければ、くしゃりと丸まった二人分の服と下着。
それはまるで街角に忘れ去られて、風に攫われる寸前の芥のよう。
今にも目の前から消えてしまいそうなその芥を見つめて、昨夜の記憶を呼び起こそうと試みる。
アルコールの香り。
吐息。
潤む眼差し。
そして、熱。
断片的な記憶でも、何をしたかは分かりすぎる程に思い出された。
――どうする?
今、この瞬間。
隣で眠る彼が目を開いたなら。
――どうすれば、いい?
寝起きと、アルコールの靄の残る頭をフルスロットルにして考えたが、答えの出ないうちにその瞬間は訪れてしまった。
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