はなのひ

一時間はあっという間だった。

僕は階段の柱に寄りかかって座り、蛍の彫刻を指でなぞる。

河川敷からあがってきた人たちが僕を見て邪魔そうに顔をしかめて通りすぎて行った。


ほとんど人がいなくなってからも、僕はずっとそこに座っていた。

携帯の画面を見ると、時刻は十時三分。

時間を確認してしまったら、ますます悲しくなって、じわりと涙が滲んだ。

「楽しみにしてたんだけどなぁ…」

今はもう、静かになってしまった空をぼんやりと見上げてひとり呟いた。


「ごめん」


突然、後ろから聞こえるはずのない声が聞こえた。

それは、僕の聞き慣れた声で。

振り向かずにはいられなかった。

そこには、走ってきたのか肩で息をしている恋人。

瞳に滲んだ涙が溢れて僕の頬を濡らす。

「…遅いよぉっ!!」

座ったまま彼を見上げる僕。

彼は駆け寄ってきて、僕を腕の中に抱いた。

「ごめん」

頭の上から彼の声が降ってくるのが心地好い。

胸に顔をうずめると微かに汗の匂いがした。

「もう、花火終わっちゃったよ…」

「ごめん」

「僕、ずっと待ってたのに…」

「ごめん」

「寂しかったんだからねっ」

「ごめん」

「…謝るだけじゃ許さないんだから」

「何でも、言うこときくよ」

「……キス、して」



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