星の廻廊
巡る、廻る。
運命の環。
回る、廻る。
恋の円環。
「ホントに、姉貴と結婚すんの?」
デパートの喫煙所で、姉と母の買い物が終わるのを待つ俺。
そして、俺に問いかけられた姉の婚約者。
困ったように笑う慧(けい)さんの眼差しは、あの頃と少しも変わっていない。
「するよ。…涼也(すずや)くん、やっぱりお姉さんをとられるみたいで、イヤ?」
「全然!んなことない。ただ…」
そう。
姉が結婚することなど、全く問題ない。
俺には、慧さんが誰かのものになる、というのが、耐えられないだけ。
「涼也くん?」
俺が言葉の途中で口を噤んだので、慧さんが不思議そうにこちらを窺っている。
「…あんな女と結婚したら、苦労するよ?やめるなら、今のうち」
言葉にはできない想いを、タバコの煙と一緒に、肺の底まで吸い込んだ。
俺がはじめて慧さんに会ったのは、十三歳の春だった。
反抗期に入り立ての、少しばかり生意気な中学生が、姉の彼氏と対面した瞬間に涙を零したので、今でも度々話のネタにされる。
自分でも、なぜ涙が零れるのか分からなかった。
ただ、深い色をした彼の眼差しが、心が震える程、懐かしくて。
再び、彼に出逢えた事が、嬉しくて。
そして、彼の心が手に入る事はないのだと、再会した瞬間に思い知らされたのが、悲しくて。
自分でもよく分からない感情に振り回されて、涙する俺に家族も慧さんも、戸惑っていた。
けど、一番戸惑っていたのは、間違いなく俺だった。
家のリビングにいるはずなのに、全く違う光景が俺の瞳に映っていたから。
遠い、昔の。
きっと、それは。
俺が『今野 涼也』として産まれる前の、記憶。
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